東京高等裁判所 昭和27年(ラ)152号 決定 1952年7月29日
抗告人 被審判人 余語映吉
主文
本件につき東京家庭裁判所八王子支部が昭和二十七年五月十六日抗告人に対してなした過料の審判を取消す。
理由
第一、抗告の理由
本件抗告の要旨は、抗告人を相手方とし、余語美弥子、及び余語惇子、余語信一を申立人とする東京家庭裁判所八王子支部昭和二十七年(家イ)第三号及び第四五号扶養料請求に関する家事調停申立併合事件において、昭和二十七年二月十八日調停不成立となつた結果、同事件は扶養料の審判申立事件として繋属するに至つたところ、同裁判所は同年三月十九日家事審判規則第九十五条第一項により被扶養者のための臨時の処分をなし、相手方である抗告人に対し、勤務先から受ける給与の中から所定金額を毎月申立人等に支払うべき旨を命じ、更に同年五月十六日正当な事由がなくその措置に従わないとして抗告人を過料千円に処する旨の決定をし右裁判の謄本は同月二十一日抗告人に送達された。しかし抗告人が右処分に従わないのは正当な理由によるもので右過料の決定は不当であるからこれが取消を求めるため法定期間内に即時抗告に及ぶ、と謂うにある。
第二、決定の理由
先ず職権を以て記録を調査するに、前記余語美弥子及び余語惇子、余語信一等が夫々東京家庭裁判所八王子支部に、抗告人を相手方として扶養料請求に関し調停の申立をなし、同裁判所昭和二十七年(家イ)第三号及び第四五号併合事件として繋属中、同年二月十八日調停不成立となつた結果、家事審判法第二十六条第一項により審判申立事件に移行し、同裁判所は同年三月十九日家事審判規則第九十五条第一項に基き、被扶養者のための臨時の処分として、相手方である抗告人に対し、毎月受ける給与の中から所定金額を申立人等に支払うべき旨を命じ、更に同年五月十六日正当な事由なく右措置に従わないものとして、家事審判法第二十八条を適用して抗告人を過料千円に処する旨の審判をした経緯は、右記録に徴して明白である。
しかし家事審判法第二十八条はその明文の示す如く、調停委員会又は家庭裁判所により調停前の措置として必要な事項を命ぜられた当事者又は参加人が、正当の事由なくその措置に従わないときに、これを五千円以下の過料に処する旨を定めたものであるところ、元来同条は調停前の処分に関する家事審判規則第百三十三条(同規則第百四十二条により審判官の単独調停の場合にも準用あり。)の規定に対応するものである。即ち右規則第百三十三条(同規則第百四十二条において準用する場合を含む。)第一項による調停前の処分については、同条第二項において執行力を有しないこと、第三項においてこの処分をする場合には同時にその違反に対する法律上の制裁を告知しなければならない旨を定め、以て前記規則第百三十三条に基く執行力のない調停前の処分については前記家事審判法第二十八条所定の制裁を科することにより、間接にその履行の確保を図つたものであることは明らかであつて、右のような調停前の処分ではなくて、家庭裁判所が扶養に関する審判事件につき家事審判規則第九十五条により被扶養者のためなした臨時の処分については、これが執行をなせば足り、この場合不服従に対する制裁として前記家事審判法第二十八条の適用なきは勿論、これを準用すべき限りでないこと多言を要しないところである。
してみると原裁判所が、前掲記の如く扶養に関する審判事件につき家事審判規則第九十五条第一項に基きなした臨時の処分に対し、抗告人がその措置に従わなかつたとして前記家事審判法第二十八条を適用して、これを過料千円に処した原審判は、違法であつて取消を免れない。
よつて本件即時抗告は理由があるから、家事審判規則第十九条第一項に則り主文のとおり決定する。
(裁判長判事 斎藤直一 判事 菅野次郎 判事 坂本謁夫)